紫外線でフォトメカニカル有機結晶を世界最速で剥離
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆4/20 オプトロニクスオンライン
◆4/22 日刊工業新聞
本研究のポイント
◇ フォトメカニカル※1結晶に紫外線を当てることで、適切な大きさのフォトアクチュエーター※2素子を世界最速で剥離することに成功
◇ 剥離した結晶は高速なフォトメカニカル挙動を示す
◇ 電気配線?回路が不要で、非接触かつ遠隔操作が可能なため、小型機器の部品などに応用できる可能性
※1 フォトメカニカル…物質に光を当てることにより、物質の形が変形する現象
※2 フォトアクチュエーター…油?空圧、熱、電気、電磁など物理的な要因で駆動する装置をアクチュエーターと呼び、特に光によって駆動する装置を指す
概要
东方体育大学院工学研究科の小畠 誠也教授、北川 大地講師、玉置 将人大学院生(前期博士課程2年生)らの研究グループは、紫外線や可視光線を照射すると色が変化するフォトクロミック化合物からなる結晶に紫外線を照射することで、世界最速で適切な大きさの結晶(フォトアクチュエーター素子)を剥離することに成功しました。
本研究グループはこれまでジアリールエテンと呼ばれる化合物からなる結晶のフォトメカニカル挙動に関する研究を行っており、光を照射することで分子の構造を変化させ、結晶の伸縮、屈曲、ねじれなどの挙動を見出してきました(参考)。このような結晶はマイクロメートルサイズの微小な結晶であり、次世代の微小な領域におけるフォトアクチュエーターとしての応用が期待されています。しかしながら、屈曲などの挙動は結晶のサイズに依存するため、適切なサイズの結晶を作り分けることが課題となっていました。
そこでフォトクロミック化合物から構成される結晶に紫外線を照射したところ、世界最速でフォトアクチュエーター素子を剥離させることに成功しました。これまでフォトメカニカル挙動を示さない大きな結晶は使用できませんでしたが、本手法により、大きな結晶でもマイクロメートルサイズの適切な大きさにカットして使用でき、非常に高速な屈曲挙動も可能になりました。本研究成果は、2021年4月19日(月)14時(日本時間)に米国化学会「Crystal Growth & Design」誌にオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
玉置 将人大学院生
これまで、適切なサイズのフォトアクチュエーター素子を作り分けることは困難とされており、その製造法は確立されていませんでした。今回、フォトアクチュエーター素子の新たな製造法として期待できる世界最速の剥離挙動を発見できたことを非常にうれしく思います。また、本研究がフォトアクチュエーター素子の応用研究の一助を担い、小型機器として実用化されることを願っています。
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背景
フォトメカニカル挙動は電気配線や回路を必要とせず、非接触で遠隔でも操作が可能なため、次世代のアクチュエーターへの応用が期待されていますが、挙動速度は結晶サイズに依存するため、適切なサイズの結晶を作り分けることが課題とされていました。これまでは適切なサイズの結晶を選択する必要があり、挙動を示さない大きな結晶は使用できませんでした。2019年に光照射による結晶の剥離方法が世界で初めて報告されましたが、剥離に数十分要する場合もあり、より速く適切な大きさに剥離する方法が求められていました。
研究内容
図1 本研究で使用したジアリールエテン
図2 結晶1aに紫外線を画像の下方から
照射したときの剥離の様子(白黒の高速カメラ画像)
本研究グループが合成したジアリールエテン1a(図1)の結晶に紫外線を照射すると、分子構造が1aから1bへと変化し、結晶が青く着色します。着色した結晶に可視光線を照射すると元の分子構造に戻り無色となります。このような現象をフォトクロミズムと呼びますが、本研究ではフォトクロミズムに加えて、結晶から小さな結晶の剥離が新たに見つかりました。(図2)
図2は、高速カメラ(白黒)を使用して撮影した剥離の様子です。紫外線を画像に下方から照射したところ、紫外線照射0.96280秒後には結晶が青く着色しているだけですが、0.96306秒後には紫外線照射面から結晶が剥離されています。剥離前後は260マイクロ秒以内と、非常に高速で剥離が進行しています。(高速剥離の映像はコチラ→https://youtu.be/Zi-6VvjCXvE)
剥離した結晶の厚みはフォトメカニカル素子として適切な2~4マイクロメートルであることがわかりました。剥離した結晶の大きさは元の結晶サイズに比例しませんが、紫外線の照射波長を変えると変化することも明らかになりました。これは照射波長によってフォトクロミック反応の結晶深さ方向への浸み込み深さが変わるためです。剥離によって得られた微小結晶は光照射により1秒以内で可逆な光屈曲挙動を示すことが明らかになりました。(図3)
図3 剥離した微小結晶に紫外線を照射した際の屈曲挙動
今後の展開
本研究は、世界最速で適切な大きさのフォトアクチュエーター素子を製造できる新たな可能性を見いだしたものであり、光照射条件を変えることによって、あらゆる屈曲挙動を自在に操れる可能性があります。髪の毛の 1/10 程度の非常に微小な結晶のため、次世代の小さな光駆動装置としての応用が期待できます。また、毛細血管の中も動き回ることができる大きさであることを生かし、小型医療機器や体内ロボットなど、応用の可能性は多岐にわたります。
掲載誌情報
【雑誌名】Crystal Growth & Design(IF = 4.089)
【論文名】Light-driven Rapid Peeling of Photochromic Diarylethene Single Crystals
【著 者】Masato Tamaoki, Daichi Kitagawa, and Seiya Kobatake
【U R L】https://doi.org/10.1021/acs.cgd.1c00270
ご参考
2018年2月19日プレスリリース 「世界初! 光をあてるとさまざまな形に変形する結晶を発見?」 /ja/news/2017/180219-2